Eスポーツの新たな幕開け。オーバーウォッチリーグ終了後の復活

中富 大輔

Overwatch(オーバーウォッチ)は、2015年にベータ版が公開された当時、eスポーツとしての発展の可能性を秘めていたことから、世界中のチームが正式リリース後の戦いを楽しみにしていた。

その後すぐにオープンシステムが構築され、Activision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)社は、フランチャイズ制に移行した。

また、2018年の最初のシーズンでは、フランチャイズ枠が1枠あたり約2,000万ドル(約16億円)で販売されたと報じられている。

計画の内容は、NBAにあるような「eスポーツリーグ」を作り、都市を拠点としたチームによる巡回型の大会を実現しようという野心的なものだった。

オーバーウォッチ プロリーグ(owl)の初期段階の2018年と2019年は、ややスローなスタートで始まり、主にロサンゼルスのBlizzard Arena(ブリザード・アリーナ)で行われた。

2020年のシーズンからは徐々に注目を集め始め、各都市を巡る形の大会が始まる予定だった。

しかし、パンデミックが発生し、すべての大会がオンラインでの実施となってしまった。

そんな中、ブリザード社は2019年末に、ゲームの続編となる「Overwatch 2(オーバーウォッチ2)」を発表した。

当初、オーバーウォッチ2では、ロールが1つ削減され、ゲームプレイが6対6から5対5に変更される予定だった。

しかし、度重なる遅延や、コンテンツの削減に見舞われ、2022年にリリースされた際には冷ややかな反応を受ける結果となった。

その間、フランチャイズリーグが提供する予定だった収益が不足していたことから、オーバーウォッチリーグのチームは組織的な損失を出し続けていた。

さらに、翌年の2021年に起きたBlizzardでの性的嫌がらせ不祥事により、State Farm(ステートファーム)やCoca-Cola(コカコーラ)などの有力なスポンサーが離れたことで事態はさらに悪化する結果となった。

これらのことが要因で、チームは損失を削減し、初期投資の一部を回収する方針を強める結果となった。

そこで、マイクロソフト社が、Activision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)社を687億ドル(約9兆2,745億円)で買収することとなり、この事態が公式に発表される数か月前の段階で、チームにはフランチャイズから撤退する機会が与えられた。

これにより、Overwatch League(オーバーウォッチリーグ)は終わりを迎えることとなった。

そしてこの数か月後に、ファンやプロプレイヤーの士気を高めるために新たなオープンサーキットが登場した。

ESL FACEIT Group(ESLフェイシット・グループ)は、「Counter-Strike(カウンターストライク)」のような誰もが参加しやすい仕組みと、競技の公平性を推進することを目標にOverwatch(オーバーウォッチ)に参入した。

また、新たにできた対面形式が特徴の「オーバーウォッチチャンピオンシリーズ(OWCS)」という大会は、サウジアラビア政府が支援する「Esports World Cup(eスポーツ・ワールドカップ)」の一部となる予定だ。

さらに、オープン予選では、あらゆるチームに対して参加の機会が与えられる仕組みとなっている。

ENCEのCEOであるMika Kuusisto(ミカ・クイシスト)氏は、Esports Insider(eスポーツ・インサイダー)に対し「私たちは、2017年から2018年にかけてオーバーウォッチの競技を見守り続けてきた。」と語った。

「Blizzard(ブリザード)がリーグを終了して以来、オーバーウォッチのエコシステムには多くの混乱があった。

そんな中、多くの才能あるプレイヤーがチャンスを求めており、ファンは今後何が起こるのかを心待ちにしている。

そこで、ENCEのような組織が、エコシステムをより持続可能なものにするために活躍している。

ESL FACEIT Group(ESLフェイシット・グループ)が、積極的に活動していることに対して前向きな期待を抱いているが、まだ長期的な見通しについては不透明な部分が多い。

オーバーウォッチへの復帰は、私たちの拡大戦略の一環である。

エコシステムを支援する機会を見出すと同時に、競争力のあるチームを結成して、自分たちのユニフォームを誇りに戦ってもらえると考えている。」と続けた。

また、OWCSは、以前参加していた組織のみを対象にしているわけではなく、フランチャイズリーグの終了により、世界中から新たなチームや投資が集まっている。

Team Falcons(チーム・ファルコンズ)のグローバルeスポーツディレクターを務める、Grant Rousseau(グラント・ルソー)氏は、Esports Insiderに対し、「フランチャイズ時代が終わったことで、チーム・ファルコンズは最高レベルでプレイできる韓国のロースターを採用し、完全参入することができた。

また、MENA(中東・北アフリカ)地域の女性のみで構成されたロースターも結成していて、これをとても誇りに思っている。」と語った。

チーム・ファルコンズをはじめとする、ENCEや、SpaceStation Gaming(スペースステーション・ゲーミング)などのチームは、5月31日から6月2日にかけてDreamHack Dallas(ドリームハック・ダラス)で開催される、最初のメジャー大会への出場資格を獲得した。

さらに、オーバーウォッチのサーキットに関する詳細が明らかになるにつれ、Fnatic(フナティック)やTSM(ティーエスエム)といった世界的に有名な組織がシーンへの参入を発表している。

更に、ルソー氏は以下の様に続けた。

「私たちの目標は非常にシンプルなもので、オーバーウォッチで獲得できる全タイトルを勝ち取ることだ。

最近行われた韓国コンテンダーズリーグで優勝したこともあり、現在はダラスメジャーと、Esport World Cup(eスポーツワールドカップ)への出場資格を獲得することと、最終的には優勝することを目指している。

このゲームを通じて、ファルコンズとオーバーウォッチの両方をプロモートし、eスポーツ組織としての実力を示したいと考えている。」

ファナティックは、オーバーウォッチ2への参入を発表した最新のeスポーツ組織だ。

こうした新たなeスポーツサーキットの開始により、選手層の幅が大きく広がり、今後の競技シーンに多大な影響を与えることが期待されている。

これにより、オーバーウォッチリーグのフランチャイズ選手の新たな活躍の場が広がり、ゲームの従来のTier 2サーキットであるContenders(コンテンダーズ)の選手も、最大級の舞台で競技できるようになった。

Toronto Defiant(トロント・デファイアント)は、フランチャイズリーグが終了した後も存続する最も有名なオーバーウォッチリーグブランドであり、新しいメンバーを揃えてOWCS(オーバーウォッチ・チャンピオンシップ・シリーズ)に参加している。

一方で、オーバーウォッチがFACEITに統合されたことがきっかけで、プロへの道筋が新進気鋭の選手にとってより明確となった。

クイシスト氏は、「私たちは、フィンランド人を中心としたContenders(コンテンダーズ)チームを結成するチャンスがあることが分かった瞬間から全力を尽くしてきた。

しかし、オーバーウォッチのロードマップや、賞金プールなど未解決の疑問が多く、道のりは決して簡単なものではなかった。

そこで、何を構築し、どのような予算で運営するのかを確実に決める必要があった。」と語った。

現在、OWCS(Overwatch Championship Series:オーバーウォッチ・チャンピオンシップ・シリーズ)では、投資先としての安定性に対する疑念が最大の課題となっている。

また、シーズン全体の賞金プールはまだはっきりしておらず、ロードマップも十分に定まっていない。

クイシスト氏は、「まず第一に、世界最高のチームに挑戦できるチームを作りたいと思った。

第二に、オーバーウォッチ内で商業的に成り立つ形を見つける必要がある。

後者には時間がかかるだろうし、まだ多くの不確実性がある。

競技面では素晴らしいスタートを切ることができたが、シーズンを通じて結果を出し、ファンに興奮を届けられることを願っている。」と思いを述べた。

Esports Charts(eスポーツ・チャート)によると、Overwatch Champions Series 2024(オーバーウォッチ・チャンピオンズ・シリーズ2024)の地域別ピーク時視聴者数は、61,000人〜31,000人の間で変動している。

この数字は控えめではあるものの、地域に焦点を当てたリーグであることから、Overwatch League(オーバーウォッチ・リーグ)と直接比較するのは難しいのが現実だ。

ドリームハック・ダラスは、このシーンの視聴者数の真の指標となることが予想される。

また、オーバーウォッチ・チャンピオンズ・シリーズ2023のプレイオフでは、ピーク時視聴者数が157,689人を記録していることから、OWCS(オーバーウォッチ・チャンピオンシップ・シリーズ)では、この数字を超えることを目標とすることが予想される。

現在、エコシステムには、Twisted Minds(ツイステッドマインズ)や、M80(エムエイティー)、Crazy Raccoon(クレイジーラクーン)などの組織が参加している。

また他にも、Students of the Game(スチューデンツ・オブ・ザ・ゲーム)のような未契約の強力チームや、Team Peps(チームペップス)などのあまり知られていないチームなども含まれている。

各チームは、北米(NA)、ヨーロッパ・中東・アフリカ(EMEA)、アジアの3つの主要地域に分けられる。

また、アジア地域は韓国の企業であるWDG(ダブリューディージー)によって運営されている。

選手の観点から見ると、エコシステムには、元オーバーウォッチ・リーグのスター選手であるイ・ジェウォン選手(ゲーム名「LIP」)や、期待の若手ディエゴ・モラン選手(ゲーム名「Vega」)などが参加していることから、活気に満ちたシーンが今後期待できる。

そして、注目の実力が試される場所は、「Dreamhack Dallas(ドリームハック・ダラス)」だ。

ファンや専門家は、このドリームハック・ダラスにて「競技シーンのトップとして君臨する」可能性は現実になりつつあるのかを、実際に自分たちの目で確かめることになるだろう。

(なかとみ だいすけ) eスポーツ専門ライター。国内外の大会レポートやプロ選手インタビューを手掛け、業界動向を分析した記事で高い評価を得る。5年以上の執筆経験を活かし、読者にeスポーツの魅力を発信中。