2025年5月、ポルシェがeスポーツに特化した体験型施設を新たにオープンした。ドイツ・ケルンにあるポルシェセンター内に設置されたこの施設は、同社本社からもほど近い立地にある。
リアルとバーチャルを融合させたこの空間は、同社が長年培ってきたモータースポーツの精神を、デジタル競技としてのシムレーシングへと拡張する試みでもある。
ポルシェeスポーツの拠点が始動|本格シム設備を備えた施設
この新施設は、ポルシェが主導するeモータースポーツ活動の中心拠点として位置づけられている。

内部には高性能なシミュレーターが16台設置されており、個人の練習から大会開催、企業イベントまで幅広い利用を想定して設計されている。
観戦エリアやカフェラウンジも併設されており、来場者が「体験し、応援し、学ぶ」ことができる空間として完成度が高い。
公式発表によれば、ポルシェはこの施設を通じて、競技志向の若者だけでなく、ブランドファンやパートナー企業との接点強化にも活用していくという。
なぜポルシェはeスポーツに本腰を入れたのか?
eモータースポーツの分野では、近年シムレーシング人口が増加傾向にあり、若年層への訴求力と競技の成長性が注目されている。

ポルシェはすでに長年にわたって「Porsche Esports Carrera Cup(ポルシェ・eスポーツ・カレラカップ)」をはじめとする大会を主催しており、これはプロ・アマ問わず参加可能な競技リーグとして欧州を中心に人気を集めている。
同社にとってeスポーツは、一時的なプロモーションではなく、ブランド育成と次世代ファンとの接点創出を目的とした長期的な戦略の一環となっている。
今回の施設開設は、その延長線上にある動きだ。単なるバーチャル体験ではなく、リアルドライバーのトレーニングにも応用可能な設備を導入するなど、シムと実車の境界を越える本気の投資であることがうかがえる。
BMWは撤退へ──対照的な欧州メーカーの動き
一方で、かつてLoLやFnaticなどとの提携でeスポーツを支援していたBMWは、2023年にスポンサー活動を段階的に縮小した。
背景には、スポンサーとしての効果を数値で示すことが難しかったことや、eスポーツが自社のブランド戦略とどれほど合っているのかを再検討したことがあるとされている。
このように、ポルシェがeスポーツに「体験・競技」を軸に投資する姿勢を強める中で、同じ自動車業界でもアプローチの方向性に違いが生じているのが現状だ。
自動車×eスポーツは次のステージへ
自動車メーカーがeスポーツとどう関わるかは、いま大きな岐路を迎えている。
これまでのような「広告スポンサー」から、今後は体験型施設やリアル連携を中心とした“実装ベース”の戦略が主流になる可能性がある。
ポルシェeスポーツのような事例は、その象徴的な動きといえるだろう。
他社に先駆けて“体験”を重視した施設を開設したポルシェが、この分野でどのような影響力を発揮していくのか、今後も注目が集まる。